HOSIDEN RECRUITMENT

PROJECT STORY #02

Hi-Res Audiophone

ハイレゾ対応ヘッドホン・イヤホンの開発。 自社ブランド製品をゼロから創る。

オーディオ史において2010年代の最大のトピックといわれるハイレゾ。現在では、一部のオーディオファンのみならず一般層にもこのハイレゾ音源への認知度が急速に広まっている。OEM生産でのヘッドホン、イヤホンの開発を続けてきたホシデンは、自社製品の開発を決意。その製品開発に携わった3人の技術者の苦闘を追う。

Y・T

技術本部所属
1991年入社 工学部 電子工学科卒

ヘッドホンのデザイン・機構・音響を担当。今回の開発では地道な拡販活動に感謝しているという。今後も継続して新たな機種を開発したいと意気込む。

O・M

技術本部所属
2003年入社 デザイン美術科卒

製品カラーデザイン、パッケージデザイン、パンフレット作成等を担当。今回のプロジェクトでデザインのみならず、構造や設計の知識にも貪欲に挑戦し、開発の質向上に自ら積極的に関わりたいと抱負を語る。

M・T

技術本部所属
2005年入社 工学部 電子工学科卒

イヤホンの機構、音響を担当。プロジェクトを通じて自らの信念を持つことの重要性を認識したという。裏付けとなる理論、データをそろえた上で、誰もが納得できる音づくりの難しさを改めて実感したという。

01

自社ブランド製品開発への
新たな挑戦

技術センターのベテランYは、標準品(拡販用の自社設計品)の開発を進める中、ある日、上司から「Yさん頼みがあるんだが」と打ち明けられた。内容は、開発中のデジタルヘッドホンを自社ブランドとして販売したいとの旨だった。「了解しました」。Yは口ではそう答えたものの、自社ブランド製品を売り込むためには何から始めれば良いのか思索にひたり、同じ部署のOに声をかける。 雑談がきっかけだったのだが、それが以後、何機種にもおよぶハイレゾ対応ヘッドホンなどの開発、販売につながるとは予期していなかったと、Yは当時を振り返る。ヘッドホンのデザイン・機構・音響設計はYが、Oはデザイン科出身の経歴を活かし、製品のカラーデザインやパッケージデザイン等を担当することになった。

開発が始まった。YとOはまず、開発コンセプトとなる製品イメージのすり合わせを行い、試作機の製作にとりかかる。Oは「デザインを考える際、オーディオ機器のみならずあらゆる工業製品についてジャンルを問わず、イメージの幅を広めました。ハイレゾ対応という高級イメージを出すには、どういった質感が良いか、売れ筋や流行、表面処理の方法など様々な角度から検討を行いました」と語る。 オーディオ機器は、筐体デザインを含めた機構設計に加えて音響設計、回路設計など様々な観点が総合されて最終的に完成品に至る。その中でも音響・回路設計が重要なポイント。音質に大きな影響を与える部分だ。自社ブランドとして、最新のハイレゾ製品を多くの方々にふれてもらい、その音質の素晴らしさを実感していただきたい。プロジェクトに関わる全員が同じ思いを抱いていた。そこで従来のヘッドホンにはまだほとんど採用されていない回路技術を新たに取り入れたものにした。

「音質が決まるヘッドホンの回路に、デジタル音源が劣化しない新しい回路技術を採用しました」。 Yはそう言うのだが、技術的な資料を渡し説明したところで、実際に音を聞いてもらわなければ、差がわからない。五感で体感しなければ、音質は伝わらないからだ。そこが、音響開発の難しい点だとYは語る。YとOは試作機を何度も作っては、意見のヒアリングを行った。音質の良さは理解してもらえたのだが、ここでOに難題がふりかかる。当初予定していた高級感ある艶出しの表面加工では、販売店に置いた際に、様々なお客様が手に取って触るため指紋が付着しやすいという意見が出たのだ。 「カラーデザイン見本を見ては何度も悩み、配合する顔料について試行錯誤したのですが、ここは臨機応変な対応が必要だと思い決断しました。最終的に高級感を崩さぬよう表面処理の方法を変更し、なんとか自分自身、納得のいく製品に仕上げることができました」。 かくして、ヘッドホン初号機「DH291-D1」が完成する。

PROJECT STORY #02

Hi-Res Audiophone

02

ヘッドホンの成功。
次なる試練。

ある日、販売店から声がかかった。「今度のヘッドホンの展示会に参加してみないか」という誘いだった。年に数回、日本中のオーディオマニアが集結する舞台に乗り込むチャンスがやってきたのだ。そこで、お客様と直に触れ合うことが、その後の機種開発への大きなきっかけとなったとOは言う。「最初に買っていただいた時は本当に嬉しかったですね、褒めていただくことは光栄ですが、厳しいご意見をいただく貴重な経験になりました。そうしたお客様の声が、次への改善点につながります」。Yは「オーディオマニアの方々に自社ブランド をさらに知っていただく契機になりました。雑誌への紹介やネットの書き込みなど、多くの反響をいただいたことが、次機種開発への転機となりました」と話す。

展示会での反応は上々だった。そこにメンバーに新たなミッションが加わる。ヘッドホンに続き、ハイレゾ対応のイヤホンの開発依頼が舞い込んだのだ。そこで抜擢されたのが、機構・音響製品設計者、Mだった。Yが次機種のヘッドホン開発に邁進する一方、OとMは、具体的な検討策に入る。課題は、音質とデザイン。Mはまず、音質の理想となる特性を導き出す課題検討を始める。測定器を用いながら音響シミュレーションを繰り返す。各音域の出力・抵抗・音のひずみを評価しながら、音の特性と聞き心地を探る。周波数毎の出力音圧レベルを視覚化しながら、狙いとする音質を耳で見極める。「イヤホンは機構的な構造を変えると特性が変化していきます。シミュレーションで構造的なアタリを付けて何度も試作を繰り返し、技術センター内で何度も試聴を繰り返しました」。

試行錯誤の結果、ついに「神サンプル」ができ上がった。「神サンプル」とは通称で、具体的には製品化の目標となるサンプルのこと。これに基づき、量産にむけての設計がスタートする。 Mが「神サンプル」づくりに邁進していた頃、Oはこのイヤホンについてマーケティングの視点から策を練っていた。「自社ブランド は全製品が”made in Japan“を謳っています。そこにこだわりたかった。製品デザインにも朱色に近い赤で和のテイストを盛り込んだり、それが逆に古めかしいイメージにならないようにと苦心しましたね」。 ネーミングにも頭を悩ませたという。「見た目や形状から『Tubomi®』というブランド名にしました。花が咲いて次につながるイメージを描いたのです」。また、イヤホンは形状の大きいヘッドホンと違い目立つ要素も必要になるため、他社との差別化が図れるパッケージデザインにも工夫を施したという。

PROJECT STORY #02

Hi-Res Audiophone

03

アワード受賞。
音響のプロが認めた実力。

苦心の末、完成した『Tubomi®』は発売に至る。そこで、メンバーに嬉しい出来事があった。ヘッドホン・イヤホンの展示会で、何百~何千種類という製品が一堂に会する中、ベスト3の銀賞に選ばれたのだ。惜しくも金賞は逃したが、他の有名メーカーの製品を押しのけ、決して知名度は高くない自社ブランド が音響のプロたちに認められたのだ。自社ブランド開発を手掛けたことのないメンバーが一から手探りで、苦難を乗り越えてきた成果が認められた。Mは言う。「音の世界は、好き嫌いの世界。嗜好の世界です。その中で、ハイレゾという素晴らしい音質を万人の人に受け入れていただくにはどうすれば良いか。自分なりに悩みながら答えを模索していった結果が評価されました。この製品の個性が認められたことは喜びが爆発した瞬間でしたね」。

『Tubomi®』の開花宣言。しかし、それでもなお開発は続く。自社ブランド開発という根幹はできた。蕾は、メンバーたちの手によって、次なる芽吹きの瞬間を待っている。

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